【青空の果て】




新設された北校舎。
外装もこ洒落ていて、フローリングも光っていて。

そんな、北校舎に併設されている、南校舎。
薄ぼんやりとした外装は、さながら廃屋のように。

何十年前もの大震災の被害を受け、至る所にひび割れ。

そんな、みんな近づきたがらない南校舎。
もうすぐ、取り壊しが決まっている。

そんな南校舎の屋上は目も当てられないほど、汚い。

ある一部分を除いて、ほこりが積もっている。

いつも、あたしが座っている場所。
寝ている場所。
立っている場所。

半径一メートル。




これでも、昔は考えていた。

青空の向こうには、何があるんだろうかと。
信じてた。
それは、

きっと希望に満ち溢れた未来。

光が何故見えるのか、なんていらない知識を得て。
可視光線によって映し出されるまがい物の蒼。

知った瞬間から、青空の果てには絶望しか見えなくなった。



そんな青空に飛び立つように、煙がソラに上がっていく。

覚えたてのメンソールに目を濡らしながら
喉に絡まる何かを吐き出すように、三回咽た。
100円ライターを蹴飛ばすと、やっぱり百円でしかなかった。
カランと間抜けな音を立てて、校庭へ吸い込まれていった。



「あは」

かわいそうなほど痩せた自分の腕。
皮と骨と、多少の筋肉。
体脂肪率7%は伊達じゃない。

殴られ慣れたせいか、骨折だけはしない。
春、夏近くなった今でさえも長袖以外着れない。

「あンのクソジジィ・・・」

本当は、というよりは嘘も偽りも無く。

ここから飛び降りてしまいたかった。
いっそ御空に抱かれてしまいたかった。

居場所なんてどこにもない。
そう考えながらずっとずっと、生きてきた。


あなたに出会うまでは。




「またここか」

「暇人だね」

「立ち入り禁止だろ」

「らしいね」

「・・・」

「・・・・・」


静かな時が流れて、何も言わずに去っていく背中が、愛しい。

その背中が鉄のドアに消えると、
またあたしの視界を青空が奪った。







「ここも」

青空しか、見えない。

あたしの密かなお気に入りの場所、保健室。

ここだけは、青空が見えるから。
絶望しかくれなくても、いつでもそこにいるから。

ひやっとする白い鉄パイプのベッド。
校庭にははしゃぎ声が響いている。

まだ出来たばかりの痣が急に痛み出して。
さっきまでは我慢できていたのに、涙が溢れてきた。

本当は息を止めてしまいたかった。

「今度はこっちか」

「変態」

シャーッ、とカーテンが引かれて。
あらわれたのは養護の先生じゃなかった。

あたしの視界は真っ暗だった。
少し体を起こすと、濃く濡れた白い枕が見えた。

「お前、寝方くらい考えろ」

「パンツくらい何ともないでしょー」

「そういう問題じゃない。お前、それ―――」

痣が痛々しすぎたかなぁ。

今まで必死に隠してきたものを、
今日はそこまで一生懸命隠したくなかった。

ごろん、と寝返りを打つと、カッターシャツが捲れた。
栄養失調寸前の、細い胴体が見える。
同時に、消えかけの大きな痣も見えた。

虚ろな目で、白い天井を見ながら問いかける。


「青空の果てにはさ、何があるんだろうね」

「お前――」

「その先に絶望しか無くても―」

一緒に、いてくれますか。

手を離さないでいて、くれますか?



バサリ、とブレザーが放られた。

きているときは大きく感じないのに。
今彼の体から剥がされ、あたしの体に放られる。

紺色のブレザーは、あたしの体を殆ど隠してしまった。

「なに・・っ」





「当たり前だ」


明けない夜は無いよ。
あなたと出会えたから。


もう青空も、怖くない。


end.
****************
テーマ
・女の子暗め
・南校舎はボロいだろう(決め付け
・青空恐怖症(何
・男カタめ

男はねぇ。
1:先生
2:風紀委員の委員長
3:同じクラスの男の子
4:ただのストーカー(ぇ

どれでも読めますネ。

奥田美和子さんは好きですよ。
すンごく。

歌詞が深くて、重い。
なので、想像力書きたてられちゃうんだネきっと。

あくまで曲名はイメージソングなので。
ジョバイロなんかは素敵に一致してません。特に。

「あたしはこう思うんだけど?」
っていうツッコミ可な要素満載です。
寧ろ、その曲のイメージと全然違うって人もいるかと。

でも何となくイメージばんばんばん!!なので(何
そのあたりはご了承下さいませ。