【ジョバイロ】
パチパチパチ・・・
拍手が鳴り止まぬ会場。
皆興奮による赤みがかった顔での、スタンディング・オベーション。
会場何百、何千もの人々の賞賛は一人の女性へ向けられている。
「現代に蘇ったモーツァルトと言うべきこの才能は・・」
司会者は得意顔で彼女を紹介する。
深いスリットの入った黒いドレスは勿論、
胸元に添えられた、真紅のバラが彼女を強調付けていた。
深々と礼をして、会場をあとにする。
――――バタン。
「あ・・・」
「おめでとう、そしてお疲れ様」
「・・・うん」
薄くではあるが舞台化粧をしていた舞台上の彼女と違って、
素顔の彼女は、20歳の、
女になりきれない、されど少女でもない顔つきをしていた。
モーツァルトの名前を冠した世界大会の三連覇。
誰もが予想できなかった旋律。
彼女の才能は、誰もが羨むほど。
彼女が誕生日にプレゼントしたベントレー。
いつでもワックスがけをした後のようになっている。
一目で彼がそこに存在していると、分かる。
「三年―――」
「・・・」
「会いたかった・・」
壇上にずっといた為であろうか。
彼女の冷たい唇から、じんわりと熱が伝わってくる。
咲き誇っていたバラが、地に落ちた。
引き裂かれた蜥蜴のように、地面へと吸い込まれた。
夜明け、すぐ。
午前四時ごろ、彼は起き上がった。
「じゃぁ、俺行くから」
「うん・・」
男はシャツにネクタイをしめているところだった。
少女は、未だに動かない。
シーツに寄った皺が、人間臭くて不快だった。
「本当に送っていかなくていいのか?」
「うん、大丈夫」
「じゃぁな」
キィィ、と浴室のドアが開き、
続いてシュル、とネクタイが締まる音がした。
「また、会えるよね?」
「・・・その内な」
その応えだけで充分だから。
バタンと閉まったドアの外からは、携帯電話で話す彼の声。
貴方はとても酷い人。
貴方は、私が聞いていると分かって女と電話している。
わざと私をたきつけて、恋心に気づかせて。
その、淡く甘い恋心を欲望の渦に叩き落した。
もうすぐ、夜が終わってしまう。
優しい、優しい全てを包み隠してくれる、夜が。
夜が来れば、私は、何もかもから解放される。
この三年間、貴方無しで私のこころは変わってしまった。
育ち続ける大きな感情は止め処なく。
あなたの、隣にいるのはきっと私じゃない。
でも、すこしでもいいから、隣にいたい。
あなたのとなりで、向日葵のように笑う自分の姿なんて
想像できないけれど、矛盾する思いに。
貴方を離さない様に、と精一杯頑張っていた。
指が絡み、心も繋がっていると思ってた。
でも、私が貴方に絡めていたのは、不安だった。
でも、もうどうしようもなく。
20年間あなた以外の男なんて見させてもらえなくて。
小さな、可愛らしい少女の恋心は壊されて。
汚れた心はもう、貴方以外を映せない。
夜が、明ける。
全てを隠してくれていた闇が開ける。
貴方が明け方までに部屋をでるのはいつもの事よね。
陽が照って、戸籍上の関係までも明らかにしてしまうから。
きょうだいという関係すら隠してくれる闇は
汚れすぎていて心地よい。
全てを照らす光は、いまのあたしには眩しすぎる。
ねぇ、お兄ちゃん。
end.
**************
テーマ。
・暗めな話
・きょうだい(兄妹)
・ピアニスト
・ベントレー(笑)
これだけ読むと、恋殺の青年にも見える。
・・・というより、途中まではヤツで書いてました。
でも番外になるとメンドィーと思って、こうなったり。
読み方はご自由に。
ただ、今のところ青年の妹は出演予定ないので。
実際話(本編)だとただあの「面倒臭い」が口癖の青年が
相当酷いヤツになってしまうのでー・・。
ううむ、パラレルで読んでもらうのが一番かしら。
でも、バレンタインの「チヨコレヰト」と似てるなァ
・・・あ、でも随分丸い人だよね、この人。
口調が優しい(苦笑)
お兄ちゃんは確信犯です。
でも、遊びなんだよなぁー。
愛はありません。
ただ、お兄ちゃんの暇つぶし。
それが分かってしまった20歳の大人という自分。
やめなければという理性と、
そして本能の戦いーってイメージで。
気づけば初。黒背景。
本当にあとがき長いですね。
ううー・・(汗
超SS第3弾をお楽しみに☆
20060421