「えっと…譜遊、さんですよね」
彼女が自分の名前を呼んだ。
唯個を判別する為だけにつけられた名が、一瞬にして特別なモノになる。
こみあげて来たのは 驚きと
嬉しさと
途方も無い独占欲。
何を勘違いしたのか、少し悲しそうに伏せられた睫毛は長く、頬に影を落として。
形の良い唇が紡ぐ言葉は、僕に向けられていて。
思わず抱きしめた体は華奢で、細くて。
響いた嬌声は、理性を粉々にする程甘美で。
貴女の全てが僕を酔わせてやまないのです。
甘い甘い媚薬のように
貴女なしではもう…僕は…
それなのに
貴女はきっと、僕を、拒む
でも、僕は君を離せない。
縛り付けてでも、何をしてもでも。
「嫌な訳ないですよね?」
拒絶なんて、許さない。
青い薬
自分の部屋に戻り戸を閉めると、何と無く口から溜め息が零れる。
それから浮かぶのは、いつも貼り付けている笑顔。
仮面のような、笑顔。
決して、その下の本当の笑みを出さない為に。
電話の受話器を持ち上げ、ダイヤルを回す。
その番号の持ち主は、旧知の友。
「やぁ佐菜。ちょっと、いいかな?」
『何?情報なら今俺の所に譜遊が欲しそうなのは無いよ?』
僕がよく使っている情報屋であり、同じ年の少年、佐菜。
拾われて、この飛天閣に売られてくる前まで、売人の所で一緒に過ごした…所謂腐れ縁というヤツである。
客人同士の騒動、又は客と娼婦の問題等の調停を行う際に、懇意にしているのだ。
調停…と言えば聞こえが良いが、言ってしまえば単なる『脅し』になる。
バラされたくなければ、大人しくしろ。
遊郭と言う場所では、問題は嫌と言うほど起きるもの。
そのために、客の弱みを常に握っておく必要があるのだ。
「どうしても、欲しい情報があるんだ。」
『…誰の?』
「朱雀、暁」
息を呑む気配が聞こえた後、何故か溜め息を吐かれた。
『悪いけど、彼のは無いよ。
あそこは警備が恐ろしく固いし、本人もお堅いことで有名で、浮いた噂一つない。
一つ言うとすれば…ある遊女を溺愛してるって事だけ。』
知ってるだろうケドね、と笑いながら言う彼に、少しの怒りと…安堵が生まれる。
「…これだから察しの良い奴は困る…」
『何か言ったかい?』
「ううん。何でも。」
「あ、そうだ。例の薬、使っちゃったからまた頂戴。」
『良いけど…アレ即効性あるし普通もっと保つ筈だよ?』
友の言葉に、唇が半月を形作る。
「ちょっと、友達にあげちゃって…ね。」
『…わかった。』
察しの良い奴は、困る。
けど、
察しの良い奴は、楽でいい。
「じゃぁ、また入用な時は連絡するよ。」
そういって受話器を置く。
次の策を考えなくちゃ。
思い出されるのは、先刻届けた、青い液の入った小瓶。
生憎まだ使った事はなかったが、他でもない、あいつが回してきた物だ。
きっと、期待通りに違いない。
あぁそろそろ、あのヒトの時間が終わった頃じゃないか。
今は他の者が見送りに行っているだろう。
彼女は、まだ部屋に居る筈だ。
「さて、どうなってるのかな…?」
そう独りごちて、自室の襖を開ける。
向かう先は、愛する人の居る場所。
荒い息遣いが障子戸から漏れ出している。
無言のまま戸を開き、部屋へ足を踏み入れれば、布団の上に彼女が寝ていた。
近寄って、彼女の髪を梳く。さらさらと、指の間から髪が逃げる。
それがくすぐったかったのか、彼女がとろんとした瞳でこちらを向いた。
「ふぁ…ぁ…きら…さま?」
嗚呼。
なんて、この人は残酷なんだろう。
彼女がまた他の言葉を紡ぎだす前に、僕は奪うように自分の唇を重ねた。
乱暴に舌を絡ませれば、目元が紅く染まる。
思う存分口の中を犯した後、耳元に口を近づけ、
「今度は、僕の番だよ?」
そう囁いて、首筋に噛み付くように痕を付けた。
貴女は甘い甘い媚薬のようだ。
僕を、酔わせて止まない。
でも、それじゃぁ不公平でしょう?
僕も、貴女を酔わせてあげる。
貴女が綺麗だからいけないんだよ。
汚れて、汚れて、
僕の色に、染まれば良い。
サァ、一緒に堕ちて行こう?
新キャラ登場ー。
多分これから出張ってくれることでせう。
てかあんまり先進んでないよ柘榴さん(滝汗)
夏の暑さに負けました(ホント惨敗)
お次は椎葉様。とことんやっちゃって下さい。