2月14日、何の日か知ってますか。 バレンタインデー、と答えた貴方。 正解です。 聖バレンタインデーとか言ってますけど。 そんなに綺麗で可愛らしいものでもないのです。 戦賭バレンタインデー 〜弐月壱四日ノ合戦〜 決戦当日に準備をする人はいない。 古より、名高い武将達は戦略や準備で栄光を勝ち取ってきた。 前々からの入念な準備こそ、成功に繋がるのだ。 そう、情報やコネや自らの武器はトコトン利用すべきなのだ。 よって、バレンタインのバの字も出ないこの時期から。 あたし、富士川あこは準備を始めているわけです。 「あこ、刀祢先輩狙ってんでしょ」 学校が終わった。 長ったらしい時間を我慢してやっと訪れた放課後。 部活中の先輩待ちで教室に残っている。 「狙ってるなんてレベルじゃないって」 そんな簡単な話じゃないの。 絶対落とす。 変なプライドみたいなモノがあって。 本当に好きなのかは分からないけど、欲しい。 「あこが落とせない男いないもんねー」 「まー・・・・ね」 今まで何人も彼氏はいたけど、どれも当てはまんない。 みんな何処か違って、みんな何処かが気に入らない。 メールを受信した携帯のメインディスプレイを睨む。 「早速刀祢先輩からメール?」 「なワケないじゃん。先輩は部活中」 机に突っ伏した体勢から立ち上がる。 窓の近くまで寄り、外に目線を移せば・・・ 「はぁー・・マジかっこいーし」 サッカー部の部長をしてる刀祢先輩。 風のよーにグラウンドを駆け抜ける。 運動神経だけじゃなくて、何でも出来る。 頭もいーしフェミニスト。 欲しい・・絶対手に入れてみせる。 「で、メールは?」 「役立たず君から」 返信する気も起きず、ただ新着表示を消す為にメール画面を開く。 たいして本文も読まずに携帯を折りたたんだ。 「役立た・・・小波か」 茉莉がそういうと、またメールが来た。 「今度はだーれヨ」 「・・・赤城聖治」 「クラス一の軟派野郎ねぇー・・。 ホント、あこって守備範囲広いよね」 この前は知らない大学生から告られて。 ああ、年上もかと思えば見知らぬ中学生から。 あこの守備範囲は広い。 年下からは明るいオネーサンだし 同い年から見れば魅力的な女のコ 年上から見れば可愛らしい女の子なんだろーけど 本人、至って毒舌。 「小波と赤城どーすんの」 「何か好かれちゃっててさぁー・・・。 赤城は顔はまーまーだけどイマイチ。 小波はー・・趣味じゃないから却下」 「はーぁ、辛口だ事」 「とーぜん!妥協も見切りもいけないんだって」 男選びには、さ。 そう言ったあこは、おもむろにメールボックスを開いた。 カーソルを合わせる。 受信:役立たず君 トントン、と肩を叩かれた。 「刀祢せんぱ・・・・・」 甘ったるい声で、振り返れば期待外。 同じ目線で牙のない男がそこに立っていた。 「何」 テンションは急降下。 さっきまでの自分は何処へやら? 邪魔者を睨みつけると、言葉少なげに言う。 「ごめん、刀祢先輩じゃなくて」 「は?」 はっきり言って、良く分かんない。 小波ってゆー人間はあたしには理解できない部類なのだ。 ひ弱そーだし、なよなよしてそーだし。 え、男ですか?って思うほど細いし。 格好良いと思わせるモノを何一つもっていない男。 それが、小波。 「あこちゃん」 不意に声がかかる。 「何・・・やぁん、刀祢せんぱぁい」 「ごめんね、片付けしてて」 「いえー、一緒に帰れるだけで、あこ嬉しいですからぁ」 思わず出かけた地声を慌ててカバーする。 一緒に帰ろうって誘って、了承ってコトは・・ 結構な確率で向こうにも気があるってこと。 まあ、ただ単に友達って思われすぎてる場合もあるけど・・・ あの格好良くて超有名な先輩だし、周りの女は皆先輩狙い! そうそう女の友達なんている訳ない! よし! 「あ・・・ごめん、彼氏と一緒だった?」 「いえぇ、違いますよぉ・・あこフリーで淋しいんですぅ」 ぬ。まだいたのか役立たず。 「小波君、課題なら水内先生へ提出だよ」 「・・へ、課題?」 気づけよオーラをおくると、小波は去っていった。 「先輩、帰りましょっ」 何だアイツ。 マヂありえないんですけど。 先輩と帰っていてもイマイチ面白くないし。 全てはアイツのせいだバカ。 「あこちゃん、じゃぁね」 「あっ、ハイ・・・・」 気づけば、もう駅についていた。 先輩は上り、あたしは下り。 「・・・なんだあの男わ・・・・」 バレンタイン前日。 「ん・・・何でアタシ悩んでるんだろ」 何故かあたしは悩んでいる。 ハート型、200円もした包装紙にいれるチョコは本命用。 ピンクのラメペンで書く名前は、誰。 刀祢先輩じゃないの? 自分へ問いかけても、手が動かない。 この一ヶ月、何かに戸惑いつつも刀祢先輩と帰ってた。 自分を誤魔化して、誤魔化して笑顔でいた。 違う。 何が、違うの? 「刀祢先輩・・・好き」 呟いてみる。 「・・・じゃない」 結論は出そうだ。 「こ・・・なみ?」 ペンを手放して、ぼおっと目の前を眺める。 あれ、好きって何だっけ。 ・・・・刀祢先輩は、好きなの? 「小波・・・好」 ぼうっと、心が沁みた。 ・・・そんな恥ずかしいこと、言える訳ない。 何で恥ずかしいの。 ・・・・それは・・ 「小波の事が・・・」 放課後、ガラにもなくドキドキするあたし。 刀祢センパイ、小波。 頭をぐるぐる回させる二人。 「あこちゃん」 予想外にも、刀祢先輩からお誘いがかかった。 と、同時に。 「富士川さん」 役立たずから、お呼びがかかった。 答えは昨日出ている。 迷う時間も無かった。 「刀祢先輩」 あたしは、笑顔で先輩の後をついていった。 「分かると思うけどさ」 「俺」 「あこちゃんのこと」 「前から」 分かりきったセリフが吐かれた。 でも、あたしは。 何度もシミュレーションしたセリフと、違うものを言った。 「ゴメンナサイ」 「へ?」 「あたし、好きな人が出来たんです」 ゴメンネ、罪なオンナで。 同性からは大ブーイングのかかりそうな言葉をさらっと飲んだ。 ・・・・みんなどうだっていい。 帰っちゃったかな、嗚呼愛しのヒトよ。 「小波っ!!」 初めて、名前を呼んだ。 夕日を浴びた人影が一つ、黒板を見つめていた。 「ふ、富士川さ・・・・」 「ごめん、好き」 全く分かってない小波に抱きついた。 小波は、一度頬を抓ってから、そっと背中に手を回してきた。 「ってな感じなの」 「はァ?あの刀祢先輩フって小波?」 ファーストフード店にて、二月十五日。 初めて事情を知った茉莉は驚いていた。 無理はないだろう。 「あの、サッカー部のキャプテンで何でもデキる刀祢先輩をねぇ・・・」 茉莉は、あこと、隣に座る小波を交互にみやる。 半笑いのまま、茉莉はポテトをくわえた。 本当にありえない。 しばらくはドッキリだといって信じて貰えなかった。 「予想外ね」 「こんなの、想定内よ」 いにしへの時代の武将達を悩ませた、神風やら何やら。 その風に戦略やら計画やらも全部無に返された。 二月十四日、貴女にも不思議な風が吹いてくるかも。 おわり。 ******* 急いでる具合が出てますコンバンハ。 あと四つ・・・絶対無理な気がしてきました(マテ