バレンタインだの愛だの恋だの告白だの。 ・・・全部、皆クソくらえ!! Kiss Only One Lady 「拓海ぃ、来ちゃった」 来るとは言ってなかったけど、まぁいっか。 そんな感じで、合鍵使って部屋ン中入ったあたし。 「もー寝てんの?」 まだ十時だよ、と部屋の電気をつけた。 広いダブルベッド、浮かび上がる人影。 いつもあたしがいる場所には、先客がいた。 それから数十分。 修羅場で拓海はあちらさんを選んだ。 まぁ、あっちの方が可愛い・・・けど。 聞いたら、あたしの方が後だって。 ・・・あちらさんに謝ってた。 あたしなんて、目に入ってなかった。 アイシテルって言葉も、優しく呼んでくれたあたしの名前も。 全てが棘になって、あたしを寒空へ放り出した。 「クソゥ・・・あたしって男見る目ないワ」 この前の男もそーだった。 あたしはすんなり捨てられた。 その前も確か、相手の浮気が発覚して、バイバイ。 あたし、男運絶対無いわ。 『ウィン・・ いらっしゃいませー』 コンビニのこの時期特有の飾り付けを見て半ギレ。 みんなはこれからラブラブーかよ。 はっ、バカじゃねーの 男なんて所詮・・・ そう考えながら、缶ビールを次々カゴへ入れる。 次につまみを2、3袋入れる。 ポテチとチョコと・・・杏仁豆腐、飴・・・ チョコだけは元の棚に戻した。 他は・・夕飯か もともと、夕飯はあそこであたしが作って 二人で仲睦まじく、食べる予定だったのに・・・ ヤバ、涙出てきた。 急いで、焼き鳥とカルボナーラをカゴに入れ、レジへ急いだ。 一杯になったカゴを出すと、レジの男が変な顔をした。 買っちゃ悪いかよ。 「お客様、大変申し訳ないのですが、ご年齢を・・」 「24ですけど」 「何か証明できるものをお持ちですか?」 「あー、社員証とかでもいい?」 「はい、確認さえできれば」 めんどくせーと思いながらも、社員証を取り出す。 初めて役に立ったな、コレ。 「はい、ありがとうございます」 童顔のせいか。 間違えられることは良くある。 あーもう何でもいいわ。 『7738円になります』 『10000円からお預かりします』 『2262円のお釣りになります、お確かめ下さい』 どこかぼーっと男の声を聞いていた。 拓海は、あたしを呼んだようにあの彼女の名を呼んだのか それ以上に、愛を込めて言ったのか 抱きしめて、キスして・・・ 「お客様?」 「へ?あ、どーも」 何だよ、もう別れたじゃん。 今日は早く帰って・・・・ 「あ、ねぇ」 「はい」 男は従順に頷いた。 「何かいいDVD無い?」 「どのようなジャンルですか?」 「恋愛モノ避けてくれれば」 「・・・・今在庫があるのがこちらで・・」 他人がテレビの中でイチャこくのなんて見たくねー 何でもいいから忘れさせてほしかった。 今日は、早めに帰って、 バレンタインの準備をする予定だったから。 コンビニの目の前のマンション。 その四階の右から三番目があたしの部屋。 「・・・・」 ただいま、って言えば おかえりって、拓海の声が聞こえてきそうだった。 今世界が終わっても構わない。 そんな自虐的な思考をどっかへ追いやって ビールを冷蔵庫へしまうと、チューハイと夕飯をもってテレビをつけた。 プレステDVDをセットして・・・ 『プレステ欲しーな俺』 『プレステぇ?』 『買ってヨ』 あの時は、拓海があたしの全てだった。 だから、プレステはあるけど、ゲームソフトは二つしかない。 対戦できる格闘ゲームと、終わっていないRPG。 最後にこの部屋に拓海が入ったのは四日前だった。 「・・・・・何コレ」 タイトルはお笑い系なのに、確実に中身が違う。 ピンポーン 「はいはーい」 「すみません、前のコンビニの者ですが」 新手の勧誘か? 「何の御用ですか?」 「先ほどお買い上げいただいたDVDが・・・」 「あ、ハイ」 ぱたぱた、と歩いていく。 「申し訳ありませんでした」 「いえ・・・」 商品を交換してもらう。 あたしは、会釈して去っていく彼の背中を見て。 拓海の背中と被ったんだ。 もしかしたら、淋しかったのかもしれない。 彼が、コンビニの制服姿だったら、止めてた。きっと。 私服で、鞄持って、帽子被った普段着だったから。 変な勇気がわいてた。 人肌恋しい季節だから、と言い訳をして。 「あの・・・・」 「んん・・・頭痛い」 ベッドから出た足が寒かった。 充分な広さのあるベッドから、転がり落ちそうな自分を支える。 昨日、何があったんだっけ・・・ 隣に男が寝ているのに気づいて、溜息をつく。 「こんな事ァ初めてだ・・・」 やっちまった。 時計は九時を過ぎている。 自分の部屋という事をまず確認する。 ・・・・・。 横で寝てるの、誰だ? 「あの・・・」 ん、このセリフどっかで聞いたことのあるよーな・・ 起こそうとして、起き上がる。 そして、素っ裸の自分に気づく。 「・・・もーいっか」 きゃぁ、と声を上げるほど若くなんてない。 「ちょっと、」 ・・・名前知らないし。 てか、こういう場合は、男が先に起きてドロンじゃないの? 何で気持ち良さそーに寝てんの。 「ねぇ」 "ちゅーすんぞ、若造" ん、あたしそんな事言ったっけ。 "ダメですって" 「ねー、誰か分かんないけどそろそろ起きないの?」 "何でさー?" "酔ってるでしょ?" "酔っちゃ悪いかよ" 「ちゅーすんぞ、若造」 "お姉さん、酒癖悪いですね" 「・・やることやったくせに、ちゅーだけはダメなの?」 「ダメですよ」 「・・・狸寝入り」 「何とでも」 大きい背中が、答えた。 狸寝入りが、ちょっと悔しい。 「童貞じゃない癖に」 吐き捨てるように言うと、若造は振り返った。 「キスの貞操は守ってるんです」 「何で?」 「キスは一人の女性だけにしていい行為なんですよ?」 「は?」 頭、オカシくなったのかと思った。 「あ、俺の美徳ですけど」 若造は笑う。 ・・・やっぱ、おかしい。 「ねぇ、あんた会社は?」 あたしは、とりあえずスウェットだけを着た。 テーブルには缶ビール。 右手には昨日の残りのサキイカ。 対する若造は、ズボンだけを履いてベッドにくるまっている。 「会社?俺学生ですから」 「学校どこ?この辺なら・・・」 東旧大、桃咲大学男子部(桃男*モモダン)、 それから秀黎、玲備、東正、又は・・・ 「玲備です」 あの、エスカレータ式マンモス校ね。 幼稚園から大学までいけるというオイシイ私立。 「何年?」 「二年生です」 ・・・へぇ、じゃぁー・・20位か。 あんま年変わんないじゃん。 「・・・今何時ですか」 「九時回ったけど」 「やっべ・・・学校」 「代返頼んどけば?」 「へ?」 「教授、そんなに厳しいの?」 「俺、高校生ですけど」 ・・・・・・。 「え、あたし犯罪者?」 「それは十四歳未満ですよ」 「・・・」 「しかも合意の上でなので違法性はありません」 「・・・・・冷静に言うなよぉ・・・・」 まさか、高校生とは。 シマッターと思っても、もう遅い。 ウワァお母さんもうアタシどうしよう。 「お姉さんは?会社員なんじゃ・・」 「はっ、キャリアウーマンと呼んで」 お茶汲みサンとは違うの。 仕事もデキル系目指してますから、あたし。 「・・じゃなくて、会社は」 「休んだ。だからあんたも休め」 きっと、朝一の会議大慌てだろーな。 あのハゲ主任、絶対慌ててるし。 入社二年目にして部長補佐に任命された。 大学時代ちゃんと勉強しといてヨカッター・・ どうも、今度の人事異動では昇格できる見通し。 「・・・昨日と随分キャラ違くないですか」 「昨日のキャラって何よー」 「滅茶苦茶大人しい系で」 「それはぁ・・・・」 男に、捨てられたからで。 高校生相手に愚痴るのもどうかと思った。 けど、乗りかかった船だし。 寝たんだからそれくらい聞かせてもいーか。 「男に捨てられたーァの」 「・・・お姉さんが?」 「そーヨ。相手は19歳、ピチピチの女子大生」 またビールの酔いが回ってきて、ぐだぐだ言ってた。 若造はたまに質問を挟みつつ、ずっと聞いてた。 ・・・いい奴かもしんない、こいつ。 「もーヤダ・・・あーう」 「オネーサン」 「何だよ若造」 若造は、立ち上がってあたしの目の前に座り込んで。 へにょっと笑って、そんで・・・・・・・ 「元気、出ました?」 唖然とするあたし、笑う若造。 「いーの、童貞卒業して」 「いいんです、俺お姉さんを最後の女にしますから」 あたしは若造に引っ張られて、ベッドへ埋まった。 全部酒の所為にして、今日はまどろんでいよう。 冷蔵庫に入った板チョコは、あとで若造とかじろうかな。 初めての暖かいバレンタインデーだ。 ・・・・二月十四日を、思いっきり楽しんでやろう。 こんなのも、いいんじゃないかと思うことにした。 End. ・・・・・・・・・・ 最後まで名前を呼ばずに終わらせるシリーズ(何 でも、お姉さんの元彼の名前は出てきてます。 ダメじゃん。 何か微妙だな、あう。 オマケ。 *****5年後***** 「大学卒業オメデトー若造」 「まだ若造なんですか、俺」 「当たり前よ、この若造」 キャンパスから歩く。 「今日で卒業なんですよね、俺」 「何だ淋しいのか若造」 「若造じゃないですってば・・」 「あたしももう29よ29。 もう職場でもお局様候補でさァ」 「結婚でもしたら良いんじゃないですか?」 「だよねぇ。仕事は続けたいけど、仕事だけ女もヤ・・」 「・・・意味分かってます?」 「へ?」 その日は、市役所によってから帰宅しました。