「ねー、真咲の彼氏ってどんなヒト?」 「えっとぉー、超優しくてぇー、格好良くてぇー」 「惚気かよ、ツマンネ」 「でもちょっと意地悪なのー」 「黙っとけ玉緒女・・小柳は?」 「へ?」 はんぶんこ。 「何、もうあげてきた訳?」 「・・・は?」 「愛しのダァ様に、チョコ」 時計と窓の外ばっかり眺めるあたしは・・・ はっきり言って、浮いている。 浮かれムードな教室内。 授業だってそっちのけ。 男子は下駄箱とかロッカーとか探してるし。 何かそわそわーしてるし。 いつもは汚い机ん中も綺麗に隙間作っちゃって。 女子は「やだぁー」なんて言いつつしっかりタイミング計って。 目の前にいるサッパリ系代表の美由だって、それは確かで。 「ガラじゃないけどねー」 そうやってケタケタ笑いながらも、気にするのは彼の事。 あたしと話してても、どこか心ここにあらず。 彼の方、ちらちら見てるの気づいてるよ。 授業が終わっても、珍しく男たちは教室から出ない。 あえて出て行く野郎もいるらしいが。 ちらちら女子の集団を見ている。 正直に言えばいいのに。 回りくどい。 「うわー、C組の藤川とD組の篠本ベンチでいちゃついてるわァ」 いきなりクラスメートの女の子が近づいてきて、第一声。 今にコトでも始めようというイキオイである。 世界が違う。 「篠本って・・・さっきまでここにいた」 「真咲だよ」 「・・・彼氏、学校違うんじゃないの」 ホラ、例の『超優しくてぇー』のヒト。 そういうと、美由は顔の前で手を振った。 「ダメダメ、あいつ一人じゃ足んない女なんだって」 「はぁ?二股・・」 半ば軽蔑しかけたあたしに、美由から更に一言。 「五股だよ」 「・・・・」 もう、言葉もなかった。 その後、美由が 一人はその他校の人で 二人目はC組の藤川で 三人目はバスケ部の先輩 四人目は英語科の江藤先生 五人目は付属中の三年生のコ という感じで語ってくれたが、聞こえなかった。 ・・・・いや、興味も聞く気も無いけどね。 「で、小柳サンの彼氏は」 B組の窓辺。 休み時間を謳歌するあたし。 「狭川、所属クラスA組」 「知ってるよ」 放課後に予定変更した美由。 臆病者だね、と自嘲してたけど、そんなときもあるんじゃないって。 そんな曖昧な返事で全てを紛らわした。 「知ってるなら、何で聞くの」 「いや、見かけないしさ」 「今日休みだよ」 美由に冷たく当たってしまったみたいに感じた。 ちょっとバツが悪くて。 優しい声になってしまった自分がちょっと嫌だった。 「休み?」 気にしてないみたいだったので、よしとしといた。 ちょっとズルい自分。 何気にテンションが低いのはアレがいないせいだろ。 「馬鹿だからインフルエンザ」 「馬鹿だから?」 「風邪が引けなかったから代用でインフルエンザ」 「あらまァ」 美由はオバサン臭く言った。 「美由のはどーなの」 「ん?」 「彼氏どんなひとーって聞いてたじゃん」 ぽっと、頬が赤くなった。 美由カワイー。 「アレはー・・・何だろ。 暖房器具より暖かいと、思う」 照れつつ言う美由の言葉を、彼氏に聞かせてあげたいと思った。 ノロケでも画策でもなく、ああ、綺麗だなって。 きっと、彼の一言で世界が反転して。 周りが明るく見えたり、全てが幸せだったり。 そんな感じなんだろうなぁ・・・。 いつも不安定で、楽しい恋愛。 そう、感じる。 「で、小柳。狭川はどーなの」 あたしは、こういうことに興味深深だった。 ただでさえ小柳は大人っぽくて。 彼氏の狭川も何だか雰囲気が独特で。 二人はお似合いだなぁって、心から思う。 でも、あたしは所詮凡人だなぁーって。 ま、飯食えば忘れるけど。 「ん・・一言で言うなら馬鹿だね」 「二言で言うと?」 小柳の可愛い部分が見たい、ってのも計算に入ってた。 珠緒女の真咲みたいに、惚気んのかと思った。 それで、あたしは小柳にひきつけられる。 「例えば、一枚の板チョコがあったら、 きっちり半分残してくれるような人」 意味がわからなかった。 だから、素直に説明を求めてみた。 すると、小柳は首を捻りながら応えてくれた。 「五分五分、なんだよ」 「ごぶごぶ・・・?」 「うん。優しいけど、残してくれるのは半分丁度」 ・・・・? 難解だ。キャンディーズだオイ。 このコ、満ち足りた顔しちゃってるよ?ねぇちょっと! 誰か突っ込まないの? え、なにその「大人ぁ〜v」ってムードは。 わかんないあたしが馬鹿なのかなぁ・・・ 「丁度良いバランスって感じでさ。 どっちがどっちに依存するっていうのが無いから。 ある意味ドキドキ満載じゃないけど、安定してるんだよ」 え?それ高校生の吐くセリフじゃねぇべ。 大人だよ小柳さん。 楽しいだけの恋愛なんかじゃなくて。 そんな、何が入ってるか分からない玩具箱なんていらないの。 クリアケースに入った同じリズムで刻まれる不変の音楽に、唯。 身を任せていれば楽で良い。 ピンポーン・・・ この家に来るのも馴れたものだ。 「素敵ィィ」ってハートつきで騒ぐ美由は放って。 慣れた足取りで、慣れた道をあるく。 ただ一つ違うのは、隣にあんたがいないこと。 ドアノブに手をかけると、すんなり開いた。 ・・・というより、豪快に開いた。 「ひゃ・・・」 「おっと、小柳じゃん」 「こんにちは」 「まーた大人っぽくなったんじゃないのアンタ」 「いや・・そうでもないですよ」 狭川のお姉さんだった。 童顔な上に身長も150無いくらい。 細身の体が、高校一年生くらいな感じを醸し出す。 どうも、年下と話してるみたい。 そんな彼女は大学三年生。 美由以上にサッパリした性格。 「あー、ウチのバカさっき起きたから」 「ありがとうございます」 ぎこちなく、ぺこりと頭を下げてみる。 礼儀だの習慣だのに拘らないお姉さんは親指で後ろを指差した。 「じゃー宜しくね、あたしこれからバイトでさー」 中学生相手に三時間よー、と言い残すと、颯爽と去っていった。 バイトは家庭教師らしい。 だから狭川は頭良いのか・・・と考えつつ、階段を上がる。 コンコン・・・ 狭川、入るよ。 小さく呟いてドアを開けると、思ったとおりの狭川がいた。 「小柳」 まるで、犬みたいだ。 上擦った、掠れ声で名前を呼ばれる。 病気の時は弱るらしいけど、何だか可愛らしい。 「何」 近づいていくと、手で静止された。 「嬉しいけど・・うつる・・・」 「構いやしないわ」 ベッドサイドにしゃがんで、手を額に当てると暖かかった。 いや、熱ちーだろ。 話を聞いたらどうやら39度近くあるそうで。 「ちょっと待ってて」 「えぇ」 マツキヨで買ってきた冷えピタ。 鞄から出そうと立ち上がると、不満の声。 「何よ」 「今のは流れから言ってチューでしょチュゥ・・・」 「脳味噌までやられてんの?」 「まーねー」 いつもとテンションが違いすぎる。 しょうがなく足で鞄を引きずると、中から冷えピタを取り出す。 「冷たっ」 「そんだけ熱があ・・・」 コトバは途中でとぎられて。 当の本人は「ゴチソーサマ」って唇を触って。 「お前冷てーなー」 「何すんの、安静にしてて」 「もっかいしてくれたら安静にする」 ・・・・・。 「唾液って一番感染しやすいの」 「さっき構わないって言ったジャン」 「・・・インフルなったら学校行けないでしょ」 「いーじゃん」 きっと、あたしもイカレてんだ。 こんな日だし。 「よくないよ・・」 「へ?」 「狭川に会えないんなら意味ない・・・」 自分でも驚く発言。 美由とかには偉そうに言ってるくせに。 実はあたしは寄りかかってる。 のめりこんでる。 いつも一緒にいたいとは思わない。 けれど、狭川なしじゃダメなんだ。 バフッ 音がして、狭川はベッドに埋まった。 「さ、がわ・・・?」 心配して声をかけると、元気な返事が帰って来た。 布団の布越しに、くぐもった声で。 「早く治す!薬も飲む!!」 宣言。 そういえば狭川は薬が苦手だった。 いや、普通に飲めって。 「俺、小柳欠乏症になるかと思った」 ああ。 ドキドキも無い上に色気も駆け引きも存在しない。 ただ、そこにいて当たり前なんだから。 例えるならばそれは空気。 美由が昔言ってた。 二人には、昼下がりのカフェで談論が似合うよ って。 お互いに独立してる って。 そりゃぁ、世の中のバカップルみたいには出来ないけれど。 「小柳ぃー」 「何」 「好きー」 「・・・・照れる」 「俺、何言ってんだろ」 「ばぁか」 あたしの方が好きだってば。 その言葉を飲んで、鼻の頭にキスをした。 大好きも、はんぶんこ。 end. 彼は結構甘えん坊。 おまけ 「ちょーこー」 「煩い」 「酷い」 「・・・・」 「・・・・・」 「(ガサゴソ・・・)はい」 「口移ししてー」 「唾液はうつるっつったろ!!」 ガゴン・・・ 結局は、バカップル。