第四話:明方
【おかあさん】
暗い部屋に差し込んだ一筋の光が広がり、そして遮断される。
見上げればそこにはおかあさんが立っている。顔は逆光で見えないけど、きっと怒っているんだろう。
無言で私を見つめ、そして手が振り上げられる。
分かってる、ワカッテル、私が全部悪いんだ。
お母さんの好きなようにになれない私がいけないんだ。
背中に、お腹に、肩に、顔に。
蹴られて、うずくまって殴られて、押入れに入っていた父さんの蔵書がどさりと乗った。
お母さんの顔が見れない。
後ろでパチン、と音がした。体が震えた、
「・・・。」
目覚めは最悪だった。折角昨日は楽しい事がいっぱいあったのに。
一昨日は幸平君を私のものにできた。
昨日はあの忌々しい女が気を失うところが見れた。
でも、何故。
夢は直ぐ忘れてしまうものなのに、アタマにこびり付いて、落ちない。
「・・・うぅん!!」
咳払いをして、台所へとたつ。
爽やかな青で統一されたベッドが、ギィと軋んだ。
あたまが、ガンガンする。キモチワルイ。
「・・・ハァ。」
水を一杯飲むと、ピンポーン、とチャイムが鳴った。
こんな朝から誰だ。そう思うと、清々しい男の声で声が聞こえた。
「すいませーん、宅急便でぇーす!」
宅急便、と判子を探すためにタンスをあけると、ピンクのウサギの絆創膏が目に入った。
「・・・。」
無言のまま、その絆創膏から視線を外すと、隣にあった判子を掴んで玄関へと向かう。
「あ、おはようございます・・・。」
目の前に現れた美少女に、一瞬言葉を失った宅急便の青年はハッと自分の用事を思い出す。
「あ、あの。ここに判子お願いできますか。」
「あ、はい。朝早くからご苦労様です。」
「あ、いえいえ・・・。」
声も魅惑的なその少女に、小さな包みを渡すと。
青年はどこか名残惜しそうに帰っていった。
「最初に、こんな早い時間指定の客がいるってのには腹立ったけど。
あんな可愛い子に朝から会えるんだったら、まぁ早起きも三文の徳、ってとこか。」
青年は、急用で出された包みの事も全て忘れ、トラックに乗ると近くの無料パーキングへと車を走らせた。
まだ、朝の6時。あと2時間寝てから宅配を始めるために。
「綾辻さんと、日比野さんがお休み、ね。」
大体クラスメートは皆知っているようだった。
昨日の惨劇と、誰もいない机の意味を。
そしてその内の一つは、もう絶対に埋まることが無いのだとも。
もちろん、連絡は無かったはずだ
。しかし、あえて担任も復唱したり、「誰か知っていませんか」と声をかけることも無い。
珍しく、重苦しい空気が漂う一日は、まだ始まったばかりだった。
「な、何よこれ・・・。」
包みの中は小さい箱だった。
指輪でも入っているのかと思うほどのサイズで、しかし指輪ではないことは明らかだ。
真っ黒なその箱には、白と赤で「Death For You」〜死を貴女に〜そう書いてあった。
殺人者への殺人予告。
もちろん、茜自身も出した声とは裏腹にそんなに驚いてもいなかった。
自分に何かを送ってくるという者など、どこにもいない。
それは彼女自身が一番良く分かっていた。
「さて、どんなプレゼントなのかしら?」
箱を開けると、そこには無地の厚紙が一枚。
「あと、六日?」
茜は嘲笑うと、厚紙を真空パックに入れた。
まるで、触ってはいけないもののように隔離する、と。
それを机の上に置き、鞄を持って玄関へ向かった。