序章










 あの日から二日経った。窓を叩く風の音も、軋む木枠も、目の前のこの男も、最早どうでもいい。
 少女はそれだけを心の中でそっと言うと、狭苦しい小部屋の鉄格子に白い指を絡ませた。

「どうでもいいって。お前、俺の身にもなれよ。」

 どこか気の抜けた風貌の青年は、ありありと顔に浮かべた表情通りに気の抜けた声でそれだけを呟く。
 鉄格子に顔を近づけ看守がいなくなったのを確認すると、そっと鍵口に手をかける。
「「「ショウヘイ、アツコ、シュウ、タクヤ、ナツミ・・・・コウヘイクン。」」」
 暇を持て余す少女は、今まで葬ってきた男達や女達の名前を、まるで嘆くように指折り数えていく。
キリがない事くらい、男も少女自身も分かっている。皆、空の上。
今日みたいに曇天の日にも、晴れの日でさえ輝くことの出来ないちっぽけな人間達だった。でも、大好きだった。          
でも、後悔なんて微塵も無い。あるのは嘲笑と、血と、性的満足感のみ。













少女は、恋愛殺人症候群感染者である。


青年は、恋殺症違止官である。