*あなたじゃなきゃ*
帰り道、冬というせいもあり、夕暮れの中を歩く。
「ほんっと名前通りのオニなんだからあいつはッ!」
「ゆ、有希ちゃん落ち着いて・・」
「あれ授業じゃなくて拷問よ?イジメよ?」
声を荒げる有希と、その隣で慌てながら制す亜季。
亜季は相変わらずと言った様子でオドオドオドオドしていて。
これまた相変わらず、湿度99%女だった。
「亜季はデキるからいいのよ!
あーっもうあたしなんか当てられっぱなしで・・・」
先程の補習授業の悪夢を思い出しながら、有希は顔を青くしている。
七問も連続で答えさせられ、身も心も頭も疲れ果てていた。
げっそり
今の有希に一番似合う言葉だった。
「あ〜あれは助かったな。俺いつ当たるかビクビクしてたもんよ。」
隣で快活に笑っているのは瀬川和之。
席が有希の前だったため、いつ当たってもおかしくない状況。
そんな中で、あの地獄のような講習を耐え切ったのだ。
笑顔には、恐怖から開放された安堵感と、そして疲れが少し見えた。
「秀嗣の裏切り者・・・」
「俺は何もしてな」
「嘘付け!!お前さぁ、そーゆーのを抜け駆けって言うんだぜ?
フェアゲームじゃなきゃぁ駄目だろー?」
どきり、と胸が音を打ったのを、「二人」は一斉に自覚。
心当たりのある二人は、首をおかしな方向に傾げてそっぽを向いていた。
まさか
もしや
バレた?
「瀬川君、それ抜け駆けじゃないでしょ。
抜け駆けってのは、二人の男が一人の女を愛しちゃってぇ・・。
んで、その内の一人がもう一人をさしおいて、告っちゃう事でしょ?」
あながち間違ってはいない。
ライバル宣言こそしてはいないが。
和之の心情を知る秀嗣からしてみればその通りであって。
対して紗奈は。
告白という響きに心臓が跳ね上がっている。
「紗奈?何見てんの、さっきから話もせずに・・ん?」
「あ、ゴメン」
そういいつつ、これ見よがしにイヤホンを外す。
すると有希は慣れた様子で「何処から聞いてないの?」と聞いてきた。
「全然聞いてなかった」
「もー・・・あの数学教師鬼塚がね・・!!」
「うん、・・・・うん」
もちろん、音楽なんてかかってなかった。
ただただ、視線は小林の元へ。
―――あれはどういう意味ですか
―――私は返事をしたほうがいいんですか
―――・・・あなたは何を考えているんですか
「村上‥?」
「‥‥‥へぇっ!?」
「何ぼーっとしてんの、紗那」
気が付くと、ぼぉっとしていた。
視線は小林の方、といっても一見有希をみているようにも見える。
「いやぁ、実は昨日発売のアルバムだから・・あんまりまだ聞いてないからさ」
「あ゛ーもうあんたらしすぎるわよ」
有希の一言にホッとする。
好きかどうかなんてわかんない。でも、確かに貴方を見ている。
存在が重く感じる。
なんで。
気が付くと、有希を見るふりして小林をみてる。
なんなんだ。
どうしたあたし!!
問いかけてみても誰も答えてくれない。
「村上」
「何・・・ん?ちょ、こばや」
小林はあたしの腕を掴んだ。
引っ張って、自分の下に寄せるとおでこを手で触る。
何だか冷たい手・・
手が冷たい人って心が暖かいんだよね・・
そんな事をぼおっと思っていた。
心臓は前にも増して音を出している。
どくん、どくんと早鐘に心臓は音を刻む。
小林の手の体温が気持ちよく感じた。
・・・瞼は閉じられ・・からだから力が・・・・抜けた。
「馬鹿」
有希が言った。
「すんません」
「あんたは風邪ひいちゃいけないのよ」
「何でですか」
「バカだから」
「・・・・」
有希さんは相変わらずの毒舌で。
(本人曰く、言いたい事を言っているだけらしい)
「大丈夫?」
亜季ちゃんも続く。
「あんがと・・大丈ブッ!!」
「寝てろ」
「すんません・・」
立ち上がりかけたあたしを、小林が制した。
少し強引だが、あたしは大人しくベッドへ沈む。
あたしの部屋。
あたしのベッド。
そしてベッドサイドにはやつらがいる。
眠ってしまった後、微かな記憶。
誰かがあたしをおぶって、走っていた。
その後、何か苦いものをのまされて・・多分風邪薬だと思うけど。
「村上」
「うん・・?」
「だいぶ熱下がったみたいだな・・」
「んー・・・ごめん」
「気にすんなよ」
瀬川の手があたしのデコから離された。
瀬川の手は熱い。
きっと、いや間違いなく平熱36度はあるだろう。
「じゃ、紗奈も起きて熱下がったし!あたし帰るわね」
「んー・・有希ごめんね・・・」
「謝んじゃないわよ阿呆娘!」
「はい・・」
有希はあたしに気を使ってくれた。
いつまでも長居すれば、あたしが気ぃ使っちゃうのを知ってるから。
しかも、有希だけならまだしも。
亜季チャンもいるし、瀬川も小林もいる。
だから時計を見ようとしたあたしを制して、立ち上がった。
「明日も無理しないで。病気はさっさと治す!
もし休みだったらプリン買って来てあげるから」
プリンに少し惹かれてみた。
有希のいうプリンはコンビニの一番高いクリームプリン。
あたしの大好物。
有希は立ち上がった。
・・・あれ・・・・
あたし、今まで手を握っていたのは有希だと思ってたのね?
有希立つ=両手見えてる=有希じゃない
・・亜季チャン・・・・だよな、普通は
「あたしも・・帰りますね」
「あ、亜季チャンもありがと・・」
折角のデェト潰しちゃってごめん。
そう呟くと、亜季チャンは恥ずかしそうに顔を朱に染めた。
そして、聞こえてやしないかとキョロキョロ見回す。
瀬川が聞いていない事を確認すると、亜季チャンは立ち上がった。
「ばいばい」
あたしが言うと、亜季チャンはにこっと笑って出て行った。
・・・手の感触はまだあります。
亜季チャン出て行った=この手の感触は=小林or瀬川
てかその前に、女子中学生の部屋に男ふたりってどうなのよ。
普通帰るべ。兄さん達は真っ先によ。
「―――さてと、秀嗣。
俺たちもそろそろ帰ったほうがいいだろ」
瀬川が言って、立ち上がる。
手の感触は・・・なくなって、いない。
つまりは小林だ。
握っているというより、脈でも取るような感じで。
弱くなく、強くなく乗せられている手。
その手の「存在」に、心臓は必死に警鐘を鳴らす。
臆病なあたしの心臓はすぐ警鐘をならしたがるのだ。
「んー・・そうだな。あ、桶河が買ってきたアレは?」
「冷えピタ?」
「ああ」
「おばさんに冷やしてもらってる。
冷蔵庫・・じゃ、俺もらってくるわ」
「それで村上に渡したら帰るか」
何かを二人で会話している。
内容は分からなかったが、直ぐに瀬川が出て行った。
小林と二人。
部屋の散らかし具合がやっと目に入ってくる。
何やらこっぱずかしい。
「村上」
「なにー・・」
恥ずかしい、けれど頭がガンガンしてそれどころでもなくて。
「和之は村上を大切に想ってる」
「へ?」
「俺、実は」
「秀嗣!帰ろうぜ・・あ、村上には、ハイ♪」
冷えピタを手渡すと、和之は秀嗣を急かした。
最終的にはまたもや小林が引きずられる形になる。
「あ、ふたりとも・・ごめん」
「大丈夫!じゃぁ村上、また明日か明後日にっ!!」
「気にするなよ」
二人は帰っていった。
階下では、母親が彼らに何かを言っていた。
そして玄関のドアが開き、閉まる。
・・・・・瀬川が、あたしを大切に想ってるだぁ?
新手の嫌がらせ?罰ゲームの類なの、これ。
あたしはベッドの中で一人考えていた。
・・なんでそんな事・・
『瀬川は村上を大切に・・』
ばふり、と布団の中に顔を埋めた。
目を閉じて、ゆっくり開ける。
――なんでそんな事言うの?
ドキドキが恋だというのなら。
一瞬だけど、生まれてすぐ消えたあの気持ちが恋なら。
あなたじゃなきゃ。
あなたじゃなきゃドキドキなんてしない。
あなたじゃなきゃ。
手を握っていて欲しいと思わない。
あなたじゃなきゃ、駄目。
続く。
**************
書いてみました。
えっと。半年ぶりですか。
キャラの口調がつかめてません。
砕けた方が和之さんで
お堅い方が秀嗣さんです。
まだ紗奈さんは気づいてません。
もしかしたらなぁ・・まさか。
そんなところです。
書いてる途中で、某スポーツ漫画の
猫キャラと生徒会長さんが浮かびました。
・・・学年一緒だしな・・
久々に思い出したっすよ.....
20050913