『プライドっつったって、何言ったって、大胆不敵は女のコの特権なのですから。』
それを利用しなきゃ何だってんだ。
いつぞや従姉妹のオネーサンか、それとも有希だったか。
知り合いだかテレビだか知らないけれど、から聞いた言葉が夢に出てきた。
さも、偉い人が言ったかのように。それこそお告げとか信託みたいに夢に出てきた。





なんでか、その夢には小林も出てきた。








『大胆不敵は、女の子の特権なのですから』

リピート、リピート。
























*大胆不敵*

























 


「こ、小林君!大好きっv」
「あぁあぁ、俺もお前が大好きだよ。
・・・離れてほしいんだけど、瀬川和之君。」
朝っぱらから騒がしい。
耳元の大音響の方が騒がしいは騒がしいんだけれど、ぎゃぁぎゃぁ、ってのとは違う。
「今お前好きって言ったな?じゃ、俺の恋のご相談聞いてくれるね?
あぁ、なんて優しいメンズなの君は、小林秀嗣君。」
「和之、メンズってのは」
「あ〜もうちょっと廊下行きたい?じゃぁ行こうか。」
「ちょ、和之!?」
振り返ればそこには。
亜季チャンのダイスキな瀬川と、あともう一人。
「・・・。」
「・・・!?」
自分の右肩越しに見ていたら、小林と目が合った。
無表情のままドアの向こうに消えていって、でも視線は合ったままで。
あんな事があった後に、何ごとも無いような顔で会えるほどあたしは馬鹿でもなくて。





「で、今度は誰。」
廊下の窓に凭れながら、秀嗣が聞いた。
和之は、少し顔を上げながら言う。
「今までに無く本気。ヤバイ。でも行けるかも。」
「それいっつも言ってるだろ。」
「いや・・・」
秀嗣の、これでもかと言うほどの鋭いつっ込みに、和之は何かを言おうとした。
しかし、その開きかけた口を閉ざし、和之は窓の外を眺めた。
あと五分で朝のショートホームルームが始まる。
遅刻しないように走っている人間が何人も臨めた。
「今回かなり・・。」
「・・誰、うちのクラス?」
和之の態度に「本気らしい」と悟ると、秀嗣はしょうがなく乗ることにした。
「おう。しかもちょっと席近いv席替えしたくねぇなぁ・・。」
「隣・・は中川?」
「ちがうちがう、隣じゃなくて」
「お前ら教室に入らないか!!」

「あれ、一限目って鬼塚だっけ。」
「今日は短縮だからいきなり一時間目・・数学。」
「あ〜サイアク、絶対俺当たるじゃんかよ・・・。」

二人はぶつぶつといいながら教室へ入っていく。
「あっ、瀬川君お、はよう!!」
頬を真っ赤にしてはにかみながら言う亜季に、和之はほぼ無表情で挨拶する。
「あぁ、おはよ。」
「き、今日席替えだね・・。」
「えっ、今日席替えなんかあんの?」
まともに反応してくれたのが嬉しかったのか、亜季は俯きながら言葉を続けた。
「うん、でっでも、三ヶ月くらい席変わんないみたいだよ。
な、なんか席替えしたくないかなぁ、なんて・・・。」
「あ〜マジで、中川サンもそう思う?この席で充分なのによ、これ以上良くなりようが無ぇ。」
後半部分はほぼ独り言に近い。
どうやら、この間のゲームセンターでの一件も絡んでいるらしい。

『大丈夫か・・紗奈』
ハァ、と溜息をつくと、亜季はそっと隣の和之を見た。
彼の目は、前の席の女の子、村上紗奈を見ていた。





「答案を返すぞ〜・・伊藤庄也、長見純、中川亜季・・・。」
心持暗い顔をした生徒達が、口々に「やばい」旨の内容を口にしながら教卓へ向かう。
ガッツポーズをとったり、顔を顰めたり、騒いだり。
『数学の鬼塚』の手に掛かれば、試験の平均点なぞ楽に30点を切る。
よって、殆どの生徒が補習(赤点<30点以下>の者)に引っ掛かるのだ。
「桶河有希、瀬川和之、村上紗奈・・・。」
あたしは一番前の席だ。ついでに教卓のまん前。
運の良いことに、有希は彼氏と隣の席で一番後ろ(しかも窓側)だし、有希の前は小林だったりする。
一番の得、といえば答案返却の時に立たなくて良いこと位しか、この席にメリットは無し。
「紗奈ぁ!どうだった?」
満面の笑みであたしを向き直る有希に、あたしは一言。
「セェフ。」
あたしはそれだけ言うと、机の上に無造作に置いてあった答案を有希の方へ向けた。
「50・・・8?」
「らしいね。」
「もっと喜びなさいってば!紗奈ってば平均点見たの?」
「いや、あんま。」
黒板には1、5、そして1。
「平均って151点だったの?凄いね。」
「バカ、小数点があんでしょ!?」

15.1が平均点ってどういう問題の作り方してんですかちょっと。
満点ってフツーに100だろアンタ。
そんなマトモな突っ込みも通じる事はなく。
「先生ありえないって〜。」
「じゃぁ、補習を免れた奇跡的な人間を発表するぞ〜。」
「先生無視?シカトですかっ!」
どっ、と笑いが起こる。しかし、クラスのテンションが落ちたのが明らかに分かる。
ってか中学生にうにょうにょっとしたグラフの問題解かすなって!!(滝汗
「あ〜んもうヤダ!有希どうすればいいのよぉ!!」
「彼氏は。」
「今日なんか休みなんだって。帰り今日折角暇なのにィ・・・。」
有希からちらり、と意味深な目配せを頂いた。
「彼氏とデェトしようと思ってたんだけどダブルデート+キューピッドにするね♪」
「はっ!?」
「ねぇ、亜季ちゃんと瀬川君、小林君今日暇ぁ?」
有希はあたしにあ、も言わせぬまま後ろを元気良く振り向く。
鬼塚は生徒と話すのに夢中で、有希がしゃがみこんで話しているのに気づいていないみたいだ。
「あっ、私は暇だけど・・。」
「瀬川君は?」
カタン、と自分の席に座って顔を顰めた和之に有希が話しかけた。
和之は点数から目を離すと有希の顔を見た。
「え、俺・・誰が行くのそれ。」
「ん〜っとね、あたしと、亜季ちゃん、あと紗奈も。」
有希が言うと、和之は即答した。
「行く行く、あ、秀嗣は行くだろ?だって今日塾ないもんなv」
笑顔で振り向く和之に、ちょうど有希の後ろを通っていた秀嗣は苦笑する。
「あぁ。」
「あれ、桶河の彼氏、ヤツは行かねぇの?」
「今日休みなの。」
あたしは後ろを振り返ったまま。
なんか行く事になったのでとりあえず前を向いてみる。
・・・ん?
「有希、補習は?」
「はぅあッ!?あ、やばい!!」
席に戻り始めた有希と秀嗣は歩みを止める。
有希が大声を出しても、紗奈の隣の席の大久保さんという少女と数学を語っていた為お咎めは無かった。
「亜季ちゃんは?」
「私、引っ掛かってます・・。」
「俺ギリで引っ掛かった。」
有希が顔を向けると順番に答えていく。
「有希はあるし、で紗奈は無くて・・小林君は?」
「俺は引っ掛からなかった。」
「え〜秀嗣の裏切り者ッ!」
「いや、そう言われても。」
秀嗣は静かに席に座ると苦笑いする。
「本当だ、瀬川。小林に言うのはお門違いってもんだぞ?
なんたって平均点向上に努めてくれたのは、他ならぬ小林だからな。」
※鬼塚数学ルゥルその@:平均点が50を超えた時は補習は完全に無しとなる。
「鬼塚センセェ、俺だってがんばったはがんばったの。」
「あ〜じゃぁ解説を始める」
「また無視ぃっ?先生酷いわっ・・・。」
「問一・・・」
「・・・・(凹んでる)」








 

 


カツカツカツ・・・

シャーペンの芯をカチカチと出す。
ノートの片隅に、彼女の名前をゆっくりと、丁寧に書きながら。
ぼぉっとしてると、もう午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。



一時間目:数学

解説が始まると直ぐに机に突っ伏して寝てしまった。
今日の席替え、延期にでもなればいーのに。

二時間目:古典

古典は真面目に受けるらしい。
教科書とノートを準備してしっかり聞き入っている。

三時間目:英語

英語は途中でうとうとし始めている。
イヤホンを制服のすそから出して、髪でコードを隠している。
よく一番前の席なのに堂々としてられるな、といつも思う。

四時間目:生物

一生懸命書き込んでいると思ったら、いたずら書き。
先生に「それは何だ」と聞かれて、「ナントカ星人」と答えたら
頭を、丸めた教科書で叩かれていた。桶河が腹を抱えて笑っていた。

昼休み

桶河と共に食べている。そこに中川サンが加わる。
桶河と中川サンは二人で雑誌を見ながらキャァキャァと騒いでいる。
対して、音楽を聴きながら洋楽雑誌を読んでいる。
昼食はいつもと同じ明太子マヨネーズが塗られたフランスパン。






「フランスパン、また同じものか。」
「和之、昼飯は?」
「あ?あぁ、喰う。」
「また中川?」
「だから違うって。」
「桶河?」
「あいつ彼氏持ちだろ。」

「え、じゃぁ」
「あ〜っも、はらへったからメシにしようぜっ!!」












“ムラカミ、サナ?"











ラブストーリィは突然に。
そのキッカケも突然に来たりする。


席替えとは、必然だったり、偶然だったり。


『学園天国』でも歌われたように、今後全ての命運を握るのが、この席替えなのです。

席次第で、友達も変わったりするような重要なものなのです。






「席替えをします。」


「やったぁぁ。」
別にどーでもいい。そんな感じでくじを引くと、なんと同じ席。
「あれ、村上移動しないの?」
「席変わんなかったから。瀬川は・・隣?」
「え、やった!」
「一番前の席なのに「よかった」?」
「え、いやなんでも・・・」
面白い人が隣に来た、気がする。
特に喋るわけでもないけど、ガリ勉タイプの大久保さんの隣よりは随分とマシだ。







きをつけ、礼、さよーなら。
この三点セットで終わったホームルーム。
「あの、村上さん・・。」
「何?」
「席・・・。」
ぶつぶつ、と口の中で話してるみたいでよく聞き取れない。
あぁん?と聞き返したいところだが、ここは我慢。
どう見ても、あたしが中川サンを虐めてる様にしか見えないし。
なんでこんなにオドオドしてんだろ、ブリッコか?
そう思うと、さらに沸々とムカツキがこみ上げてきた。
「席、交換してほしいと?」
しょうがなく会話の始まりを作ってあげた。
でも、まだ俯いたまま指を擦り合わせている。
うん、決めた。今日からこの女を湿度99%女と呼ぼう。うん。
「う、うん・・。」
「別にいいよ。」
「え、い、いいの?」
あまりにも、想像よりあたしがサッパリしていたんだろう。
亜季チャンは目をまんまるにしてあたしに言った。
「あたし、どの席?」
「ゆ、有希ちゃんの後ろで、小林君の横の席。一番窓際・・。」
「ん、分かった。」





かばんごと移すと、有希が驚いた顔をした。
数分間のうちに、あたしは三人もの人間の驚き顔を見るはめになってしまった。
「え、紗奈ここ?」
「うん。よろしく。」
「え、亜季ちゃんは?」
「瀬川の横がいいって。」
それで全てを察した有希はもう何も言わず、亜季に目配せした。
丁度、トイレから和之が戻ってくる。

「あれ、俺の隣中川さん?」
「う、うん・・目が悪いから変えてもらったの・・。」

「ふぅん。」

亜季はまだ俯いたままだった。











「さよーなら出来ないのね・・・。」
「がんばって、有希。」
「秀嗣のバカァ・・・。」
「早く終わらせてこいよ、和之。」

「じゃぁイッテキマス・・・。」
「行ってらっしゃい。」





『じゃぁ〜出席をはじめる・・小林と、村上と大久保以外、いるか〜?』
『センセェ最悪ッ、何その出席のとり方ぁぁ!!』


す ご い い づ ら い ん で す け ど ! !

何で何も喋らずに小説なんか読んでるんですか。
しかもね、この広々とした視界の片隅に小林って・・・どうすれば。
ま、気にしないに越した事ない。うん、そうだね。

がしゃん!!

・・・;;
(筆箱を落とした)

あたし絶対馬鹿だわ・・・あぁ。
音楽でも聴いて気を紛らわせよ・・

かしゃん・・

・・・はぁ。
(MDを落とした)



にしてもさ。
亜季チャンは大胆だ。
もし、あたしが瀬川の事好きで、亜季チャンの立場だったら。 
間違いなく何も言わないし、もしかしたら「どうでもよく」なってたかも。
結局何に対してもどうでもいいんだ、あたしは。

ちょうどブリンク182のファースト・デート。
SOUL‘d OUTも飛ばして、Every Little Thingに変えたのは何故か分かんないけど。


「村上、意識しなくてもいいよ。」
「!?あ、え・・?い、意識?」
「この前の。」
「え、うん・・。」
この前の、あの用具入れで抱きしめられたときの事。
あたしは、音が何もしなくなった後もずっと抱きしめられていて。
離して、って言いづらくて(それもそうだ
でも最後は、さっぱりとしてた。
小林はあたしを解放すると、手を引いて一言。
『家、どっち?』
二人は黙ったまんま。あたしはただ右とか、左とかぽつりと言うだけ。
『家、ここ。』
そういうと、握っていた手を離して一言
『じゃぁ』
それだけ。
それを言うと駅へ向かって歩いていった。

かなり、カッコ良かった。



そんな回想シーンを思い浮かべていると、以外にも会話は続いた。

「音漏れ、Every Little Thing?」
「そ、うだけど・・。」
音漏れしてるのか、と音を小さくすると、クスッという微笑が聞こえる。
「てっきりブリンク182あたりかとおもったんだけど」
も、もしかして小林ってばパンクロックとかメロパンとか分かる人??
そう認識すると何か警戒?が解けた気がする。
「NOFXとか、分かる?最近だと、アメリカのブッシュ大統領に」
「ROCK AGAINST BUSHの24番、jaw knee music。」
「・・・すごい、始めて知ってる人見た!!」


「村上。」
「なに?」
「俺、お前好きかもしんない。」
























***続く。


人物設定

あたし【村上紗奈】・・・<ムラカミ サナ>主人公。中学三年生。洋楽と明太子マヨネーズが好き。ゲーマー。面倒臭がり屋。
              身長は160位。A型らしい。
桶河有希・・・<オケガワ ユキ>友達。昼を一緒に食べている。一年中惚気ている。
有希の彼氏・・・名前は出てこない。(と思う。)
中川亜季・・・<ナカガワ アキ>瀬川君に恋患っている。大人しくて奥手。
瀬川和之・・・<セガワ カズユキ>有希の彼氏の友達。交友関係は広い。
        親友は小林。だけどタイプは正反対。B型。
小林秀嗣・・・<コバヤシ シュウジ>瀬川の親友?冷静沈着。お笑いを好む。
        A型と言われるO型。