「えぇ?何だって。」
昼休み。弁当を食べ終わってくつろぐあたしに、二つの影が近づいた。
上手く聞き取れなかったあたしは、思わず聞き返す。
何やら「良かった事」の話らしいけれど、耳元でガンガン鳴り響くパンクがそれを阻害した。
NOFXとペニーワイズ、そしてブリンク182のお蔭で浸っていたメロコアやメロディアス・パンクの世界から引きずり出され、
半ば不機嫌になりながらヘッドフォンを外したあたしに、一言。
「だぁーかぁーらぁー・・・ダブルデート!!」
*お誘い*
「だ、だぶるでぇと?」
「うん!良いでしょ?」
「何だそのだぶるでーとってのは。」
殆ど行く気が無かった為に、机の中にあった携帯を取り出す。
聞く気も無いのに、質問をするとは失礼だとは思うけれど。取り合えず反応を返しておく。
あぁ、ヤバイ。メールずっと無視してた。
「ん〜。正確に言えばトリプルだけど。」
「ダブルだろーはトリプルだろーがシングルだろーが何でも良いんだけど。
で、何の話なわけ?」
メールを送信し終わり、顔をあげるとそこには二人立っていた。
「あのね、亜季ちゃんは瀬川クン狙いなんだって。」
いつも一緒に弁当を食べている有希が、隣に亜季ちゃん(と言うらしい。初対面)を連れて微笑んでいる。
亜季ちゃんとやらは、何故か恥ずかしそうに顔を俯かせたまま、ただあたしを見ていて。
「ふ〜ん・・・がんばって。」
聞いていない様子のあたしを見て、有希も亜季チャンもはぁ、とタメイキをついたのがわかった。
そのころ、もう既にあたしはブリンク182の、少しお下品な歌詞に聞き入っていた。
歌詞カードに並ぶ単語は、どこの高校でも大学でも習わないような単語だ。
「最初は、亜季ちゃんと有希と有希の彼氏でどっか行こうと思ったんだけど。
亜季ちゃんが悪いっていうから、亜季ちゃんの好きな奴も誘おうって事になったの。」
ちらりと見て、あたしはまた携帯をいじりだした。
メールはきていない。しょうがなくデータフォルダの画像を見ることにした。
「だったら、有希と、有希の彼氏と、亜季チャン・さんと、その好きな奴と行けば良いんじゃないの?」
「そんなことしたら、瀬川君の事を亜季ちゃんが好きって言ってるようなもんじゃない!」
それでいいんじゃないの、と思ったがあえて口にしないことにした。
どうも良く分からない。理解が出来ない。それが女心というものらしいのだ。
「で、女三人と男二人で遊びに行こうと?」
態度見れば分かるだろうけどなぁ、それも口にしてはいけないようなきがして、やめた。
有希と彼氏で一組つくっちゃえば、残りは亜季チャンとあたしだ。
モジモジして、必死に話そうとする亜季チャンと比べて、
別に話そうともせずに音楽ばっか聴いてるあたしは「気がある」ようには見えないんじゃないか。
「ううん、有希だってそこは考えてるの。だから瀬川君と、その友達も誘うの。」
「・・・。」
何とも言えなくなり、置いた携帯を見つめたまま黙りこくるあたし。
有希はあたしが困ったように思ったらしく、「お願いモード」に入った。
困ったというより、呆れている方が正しいんだけど。
「ねぇ、お願いっ!亜季ちゃんの恋路に協力してよ。」
「・・いつ?」
二人は顔を見合わせ、「やった」とばかりに微笑みあっていた。
「おっはよぉ〜!こっち、こっちだよ。」
目の前には「気合の入った」女二人組。
白のミニスカートに、薄い茶のブーツ。トップスはピンクのニット。化粧も完璧な有希。
亜季チャンは白のブーツで、何枚も重ね着をしているみたいだ。どっちにしろかなり着ている。
で、あたしといえば。
どこでも売ってそうなジーバンに、パンクっぽいロンティー+ティーシャツの重ね着。
もちろん、化粧なんてものはしていないし、髪だってワックスすらつけていない。
靴だって、下ろしたての二人のブーツと違って、履き潰したナイキ。
それから、一言二言挨拶して、皆で歩き始めた。
何を言っていたかはオフスプリングにかき消されて全然聞こえなかったけれど。
「今日はゲーセンにでも行く?リクエストあればそこにするけど。」
「ゲームセンター、いいね。行こうよ。」
結局、ゲームセンターに行く事になった。
「・・・・。」
目の前の譜面の嵐を訝しげに見つめながら、あたしはバチへの力の入れ具合を減らした。
「チッ、MISSがいつもの倍ある・・ドラマニ、あたしもレベル落ちたわ。」
鬼姫、あたしの愛する「あさき」様の曲。
「しゃぁねぇ、たまにはポップンでもやってみっかな・・。」
移動しようと、ふと後ろを見ると大勢のギャラリィ。
そのすみっこで唖然とするのは有希と亜季チャン。そして有希の彼氏と瀬川クン、あとはもう一人。
「す、すごくねぇ・・・?」
「う、うん・・有希も知らなかった・・・。」
ギャラリィを背にして、「もう行く?」と聞けば、有希たちにギャラリーの視線が集まって。
「え〜、もう行っちゃうの?もーいっかいやってよ!かっこよかったのに。」
高校生の声を皮切りに、ブーイング交じりのアンコール。
中には、自分が金は出すからやってくれ、という人まで出てきた。
「え・・・いいよいいよ!まだそれ・・やるの?」
亜季チャンは、瀬川クンをちらちら見ながら窺っていたが、有希がこう言ったのと、瀬川クンが、
「いいじゃんか、もっかいやれよ」
とはやし立てたのを聞くと、笑顔で「ガンバッテ」と一言。
「あの・・アレ(ポップンミュージック)じゃダメっすかね・・飽きちゃったんで、ドラマニ。」
携帯で時間を確認すると、なんとゲーセンに来てから一時間半超。
大きいゲームセンターのためにほとんど待ち時間は無い。
何回やったんだろう・・・。あぁ、財布が軽いよ?
ぞろぞろ、と群集が大移動。
先ずは手始めにフロウビート。
CURUSのEXを頑張ったあとは、雪上断火のヒプロ3Hy。グランヂデスEXをやったら、何と100円で4曲できるらしい。
ミクスチャーかどうか迷ったけど、結局あさき様でしめる事に。ようこそエレジィ。幸せを謳う歌。
「人間業じゃねぇ・・・。」
呟かれた一言を聞く間もなくオワリ。
名前を登録すると、振り返って・・走った。
ギャラリーは増えに増え、このままだと・・今月分全部使い果たしてしまう!疲れたし。
唖然、とした一同の中に、可愛らしい着メロが流れる。
慌てて有希がそれを止めてメールを見ると、画面に新着メール一件。
「えっと・・あ。今大変みたいだよ、あっち。」
「あっち?」
亜季が聞くと、有希は皆に見えるように携帯を持ち直した。
「逃げてるみたい。」
な ん で 追 っ て 来 ん だ よ !
世の中にはどうもちょっとアッチの人がいるらしく。
惚れたんだか何だか知らないけど追われています。
あはは、あるわけねぇよとお思いのかた、これ真面目にキッツィです。
「いや、マジでお金ないんでごめんなさぁいいッ!」
叫んで走って、流石にインテリゲーマー(ぇ)のあたしにはカナリきつい。
「ヒィ・・・ハァ・・やば!」
「こっち!」
「へっ?」
ぬっ、と出てきた手に引っ張られてそのまま、見知らぬ灰ビルを駆け上がる。
「ちょっ・・え、何」
「大丈夫。」
一瞬、あたしに聞いているんだと分からなかった。
けど、とりあえず答えておいた方が良いと思う。
息を切らせながら、見覚えのある横顔を不思議そうに眺めながらになんとか一言。
「え、あ・・ハイ、うん。」
まごつきながら返事をすると、彼はかすかに微笑んだ。
「ここまで来られるかなぁ・・もし無理そうだったら帰ってってメール送ったんだけど」
「いや、見れないんじゃ・・」
有希と、有希の彼氏が話している間、瀬川はずっと親友の携帯へ電話を掛けていた。
「瀬川君・・だ、大丈夫だよ!」
「あぁ、中川さん・・。」
中川さん、とは亜季の苗字である。亜季は奥手のために「名前で呼んで」と言えなかったため、
未だに「苗字+さん付け」という、敬語のような接し方をされている。
「あのっ、瀬川く」
「大丈夫か・・――。」
「・・・!」
俯いた亜季の眼には、涙の粒が浮かんでいた。
「こ、小林・・?なんでここに」
「大変そうだったから・・。」
「で、でもワザワザこんなとこまで」
「シッ・・。」
『あれェ・・いねぇよ?』
『あぁ・・よく探してみようぜ』
どうもからかい半分っぽいが、ここまできたら見つからないに越したことはない。
「ゲホッ・・。」
「大丈夫?」
「大丈夫、だけどモップが・・小林こそ大丈夫・・か?」
「俺は大丈夫。」
用具入れの中、モップと箒と格闘しながら隠れる今日この頃。
みょうに気恥ずかしい。なんかしゃべんなきゃいけないんだろうけど、何いって良いか分かんない。
『あの用具入れ・・動いたっぽくね?』
『マジで?開けてみようぜ。』
ガチャン、と開いたのは隣の用具入れ。
ほっとしたのもつかの間で。
『こっちじゃね?』
ガチャガチャ・・・
(こ、小林!どうす)
ガチャン。
「おわ、危ねぇ。モップ倒れてきた」
「バァカ、もういねぇんだよ。たぶん。面白かったんだけどなァ。」
「お前そーゆー趣味かよ」
「人のこと言えねぇだろ。」
バタバタバタ・・・
シーン・・
「ちょ、こ」
「・・・。」
二人分ギリギリを、あたしが小林の腕の中に入ったことで短縮した。
「ちょっ・・もう行っちゃった、よ?」
気のせいか、微妙に力の入り具合がしまったような、気がした。
続きます。(アイタ
亜咲のゲームオタクさが分かりますよね・・ぇ