*友達と恋人の境界線*
「「ねぇ、友達と恋人ってどこからなんだろ。」」
「へぁ?」
耳につけていたヘッドフォンを外す。
つい出てしまった変な声、それすらも掻き消すパンクロック。
訝しげな表情であたしは窓から視線を戻す。
「いきなり何・・あ、彼氏君か。」
「そう・・なんだけど。」
あたしの目の前で小さくて可愛らしいお弁当を食べている友達の彼氏。どうやら、そのテの話らしい。
フランスパンに明太子マヨネーズが塗ってあるパンを頬張りながら、
午後一で帰ってくるであろう化学の小テストと、
提出物をしなかった為に<確実に>待ち受けている補習しか考えていないあたしとは対照的に、
彼女はその男の名前を出しながら、本人は意識がないのだろうが、世間一般に言われる惚気話をあたしに振ってくる。
「ふぅん、がんばっ」
「駄目、質問に答えてよ!」
またヘッドフォンを耳に戻そうとするあたしの手はすんなりとめられ、あたしの顔はぐりっと回された。
「痛ぇッ!」
「友達と恋人ってどこが境界線なんだろ。」
「は。」
「だからぁ」
もう一度言おうとするのを押さえて、しょうがなく話に付き合うことにした。
何はともあれ「トモダチ」だから。
「メールしたら?話したら?何したら恋人なの。」
「何したらってそりゃぁセ」
「そっ、そーゆーのじゃなくて!」
言いたい事は分かってるけど、あまりの真剣さにちょっと茶を濁したくなった。
そういう、恋愛だの何だのって言うのはあたしの守備範囲超えてるんだから。
分かってて言ってたらかなりのもんよ、アンタ。
「だって、付き合ってもいままでとすることがなんら変わりなくて。」
「朝一緒に行けば良いじゃん。」
「でも、朝」
「帰りも一緒に帰れば?あたし他の子んとこに入れてもらうし。」
「・・ありがと。」
「あ〜・・雨。」
他の子のアテはないことはない、いやあるんだけど、なんとなく一人で帰りたかった。
結局女は友情より愛情をとるのね・・・なんて冗談。
お迎えの子とたまたま話してたら遅くなっただけ。
「しゃぁねぇ、走って帰るか。」
どうも自分が女だとか、思春期とか言われる花の中学三年生だとか考えられない。
ただ、勉強を面倒臭がったりするのと同じように、恋とか愛とか言うものも面倒臭いだけだ。
「なんか三十過ぎのおばさんかあたしゃ・・・」
良く考えれば、はとこや従姉に大変なる悪口を言っている事にあたしは気づかない。
恋は面倒臭い、なんて振られた人間が言うものだ。または恋愛経験豊富な人間など。
恋なんてもんを一度も経験した事の無いあたしが言うには、どうもしっくりこない。でも、そんな感じなのだ。
「つっめてぇ・・・?」
鞄で頭を守っている限り、頭は濡れないはず。
まさか防水加工してある学生鞄の分厚い布、っつーか革を通ったわけじゃないだろう。
そして、自分の髪から滴る粒は薄い茶色で、どこか甘ったるい匂いがする。
「あ。」
そういえば、今日の朝ペットボトル高いからケチって紙のパックのやつ買った。
うん。あれはミルクティだったね。九十円だった。あぁ、あれだ。
分 か っ て て も ど う に も で き な く ね ぇ ! ? ( 叫
こころのなかで、そう叫ぶと。
ただひたすら走り、走り、走って、走る。
バタバタバタ・・・
・・・・ザーッ、、、ザザザァーッ・・
靴下に泥がはねようと、もうどうだっていいや。
鞄を右手でしっかりと掴んだまま、駅まで猛ダッシュ。
「なぁ、昨日のさぁ・・・・。」
「・・・あ〜見た見た!面白かったよな。」
「昨日の・・・?俺見てねぇ〜!」
「え、見てねぇ?昨日の面白かっ・・ぃって!?」
「あ〜ゴメンナサイっ!!」
目の前を走り抜けるのは一人の少女。
そんなに親しくもないけれど、何度か話したことのあるクラスメートだ。
「で、何があったんだよ?ん?」
「・・・き、昨日?」
「おまえ聞いてろよ・・で、なんだったんだよ。」
友達と、恋人の境界線。
さらに、その一歩手前。