大人と子供の境界線は、とたずねたら
きっと、多くの人は20歳と答えるだろう。
他にも高校生からだ、とか色々あるだろうけど
きっと、明確な数字が出るんだと思う。
じゃぁ、もし。
大人の恋愛と子供の恋愛の境界線は、とたずねたら?
コドモ レンアing now
「ねぇ、友」
やっと学校生活に慣れてきて、新しい友達もそこそこできた。
と言っても、あたしの通う青春学園はエスカレータ式の学校。
殆んどが顔見知りか、友達と言った具合。
「なぁにー?」
そんでもって、一番楽しい昼休み。
持ち込み禁止のお菓子を、ちょっとだけ持ってきて。
友達と、あと20分の休み時間を楽しもうとしていたときだった。
「正直さ…」
「ぇ、どうかしたの?」
急にトーンダウンして潜められた声に驚きつつも、
ココアのジュースパックはあたしの手からは離れない。
また、ストローも口から離れない。
ミーハーな子だから、多分
「テニス部にOBの先輩達来ててね〜」
とか、
「○○先輩と目があったの〜」
とかだろうと、あんまり真剣に聞きいってなかった。(酷っ)
しかし。
「友、あんた越前先輩とドコまでいってんの?」
意味深な目つきの友達に、話の内容の雰囲気はなんとなく分かるが
彼女の言いたい事が全く掴めない。
「・・・ええと、どこまでとは?」
恐る恐る聞き返したあたしに、彼女はあきれ返ったような顔で言う。
「あ゛ーっ!越前先輩の苦労が分かるわ・・・」
「?」
分かんない様子のあたしになんとか理解させようと、
彼女は一つずつ間をおいて、話始めた。
「本当に付き合ってるんだよね?」
「うん。あたしが中二位の時からだから、かれこれ二年だね」
「あんたら二人は幼馴染みなんだよね?」
「うん」
「いっつも一緒にいたんだよね?」
「小さい頃は、お風呂とかトイレも一緒だったよ♪」
「・・・」
「でも、最近はリョーマ君が嫌だって言うんだよね〜」
「・・・」
疲れ果てた顔の友達に気付き、声をかけたら溜め息が帰ってきた。
どうやら、言う気も失せたようで。
「友達って言うか、家族くらいの勢いじゃない?」
「う〜・・でも、家族よりもっとおっきぃ感じかなぁ・・」
あたしが考え込んでいると、友達は急にまたトーンを落とした。
「で、キスは?」
「ぶほっ・・けほ・・・いきなり何言うのっ!?」
「いいから、どうなの?」
「・・・あるけど、最近二、三回初めてあったくらい」
「ねぇ、友」
「だから何って」
「そろそろ、子供恋愛卒業した方がいいんじゃない?」
「こ、コドモレンアイ・・」
彼氏持ちで、大人びている彼女が言うだけある。
子供恋愛っていう言葉の意味は良く分からないけれど、
友は彼女の話に聞きいっていた。
「二人とも・・ま、少なくとも友は小さい頃からずっと同じ認識してるんでしょ、越前先輩に対して」
「うん・・・」
「あんたの中では、まだ子供の、少年のイメージのまんまなの」
「・・・うん」
「いい加減、彼をひとりの男として見てあげたら?」
確かにその通りだ。
今まで、そう【彼氏と彼女】になってからも、何一つ変わらなかった。
ただ、友自身は好きで堪らなかった彼と、
今までとは違う関係になれたようで嬉しかったのだが。
「ひとりの・・・おとこ」
「そ。健全な男子高校生が、二年も何もしないなんて、
越前先輩も随分と我慢強く出来てるのねー・・・」
「ぅー?良く分かんない・・けど」
「多分向こうは友の事、ひとりの女として見てるから大丈夫よ」
「・・・うん?」
何が大丈夫なのか詳しく聞きたいところだったが、
昼休み終了のチャイムが鳴ったために慌てて席につくこととなった。
そして、友が五時間目からずっと、
考えに没頭して何も聞いてなかったのも当然の成り行きだった。
「よし、あたしひとりで悩んでてもしょうがない!
リョーマ君除く〈大人〉な皆さんにアドバイス貰おうっ♪」
《遊びに来ていたテニス部OBの皆さんに聞きました
『大人の恋って何ですか?』》
「結果がー・・ほろ苦い感じ、とかビタースイートとかプラトニックとかー・・
数名、あたしにはまだ早いって教えてくれなかったんだけど・・・」
そもそも、ドコが境界線なんだろ。
「大人がすれば大人恋愛、あたしはー・・?」
考えれば考えるほど頭がこんがらがっていく。
愛とか恋とかも良く分かんなくて。
でも、ただ側にいたい。
会いたい、じゃだめなのかな。
あたしは良くても、でもきっとリョーマ君は我慢してくれてるんだ・・・
何をかは分からないけど、とにかく嫌な思いはしているはず。
そう思い、先程の皆の言葉が蘇る。
『まずは相手のことを―――』
「名前で呼び捨てにする!」
簡単な事から始めよう。
あたしのイメージでは・・・大人の恋愛ってのはどうなんだろ。
喫茶店でコーヒーの砂糖入ってないやつ(ブラックの事)を飲みながら、
お化粧ばっちりのお姉さんと、落ち着いた雰囲気のお兄さんが静かに談笑・・・とか。
後は、ほのぼのした感じじゃないやつ?
OBの先輩達、何ていってたかな・・・
例えば、お互いの部屋(独り暮らし前提)を合鍵で通い合ったり、
結婚を視野に入れての恋愛とか、
あとは〜二人で夜明けのコーヒーを飲むとか
最後のはよくわかんないけど、とりあえず実践あるのみだ。
友はそう呟くと、一人きりになってしまった教室を出た。
その頃。
「おチビーv」
「もう俺チビじゃないっす・・」
「そうだな、何たって部長つとめる位だもんな」
「・・・まぁ」
今年、丁度一ヶ月とちょっと前。
桃先輩や海堂先輩達が卒業して、正式に部長とされた。
まあ、実質。
受験勉強で先輩達が引退してしまった二年の二学期から
俺は仮部長として動いていたわけだが。
「ああ、さっき友ちゃん来てたよ」
「友が!?な、何て」
「大人の恋愛って何ですか〜って質問していったにゃ」
「おとなのれんあい?」
突然の意味不明発言に、リョーマはオウム返ししかできない。
そんな彼を、先輩方は微笑みつつ見つめる。
「いやー純粋な子だな。俺言えないって言っちったもん」
「不二が一番上手かったにゃ」
「ビタースイート、ってやつ?
下手に誤魔化すよりはよくわかんない事言った方が言いかと思って」
「流石は不二だにゃー」
リョーマを無視したまま、三人は会話を続けていく。
「友達が、そろそろ大人の恋愛してみろって言ったんだってさ」
「!?」
「で、具体的にどういうのがいいかって」
「教えてくださいっていうもんだから、
本当に教えそうに・・って嘘!嘘だ越前!ラケット下ろ・・ゲフッ」
(済・ツイスト)
「(ったく・・無防備だな)」
「でも、ああいう子って何も知らなそうだから
ああやって目を輝かせて聞かれると教えたくなるよね、むしろ不可抗力?」
「そーだにゃー。多分今も色んな人に聞いてるだろうにゃ」
「・・・・ッ!」
「あっ、越前!?」
「すいません、頼みます!!」
先輩達に部活を頼んで、教室へと走る。
まだ居てくれるか、と考えながら。
「友!」
「あ、リョー・・」
友は教室にいた。
ひとりで、なにか本を読んでいたらしい。
いた・・・と安心するリョーマに対し
友は彼を何と呼んだらいいのか分からない。
(さっき決めたんだから!そう、呼び捨てにするの、友!)
「り、リョーマ」
「・・・何?」
平然としているリョーマに肩透かしを食らった気分だ。
もっとなにか反応があると思いきや、いたって普通。
こんなのは普通なのか、大人の恋愛って難しい。
そう考える友の横に居る彼はといえば。
(いきなり呼び捨てか・・誰だこんなん教えたの)
心臓は爆発しそうなほど早く鼓動を打ち続けていて
思わず胸に手を当ててしまいそうになる。
「何でもない・・」
「友、今日部室に行った?」
一言一言が、夕日色の教室に吸い込まれていく。
どこか、重い。
ドキドキしているのが声に出ないか、二人とも精一杯で。
ちょっとした沈黙が、落ち着かない。
「ぶ、部室?行ったよ」
「何しに?」
「・・・えっと、先輩達に聞きたい事があったの」
「何」
「・・・・あの・・えっと・・」
「俺にいえない事?」
「そっ・・んなこと」
友は椅子から立ち上がる。
なにかを言いかけて、拳を握って、俯く。
「ない・・けど」
「けど、何?」
友が誰に何を聞いたかなんて分かっているのに。
自分は食えないやつだと自負しているのだが、ここまでとは。
「あのね、大人の恋愛してみたいの」
「・・・友達に言われたから?」
友の目が、なんで知ってるの、とばかりに見開かれる。
しかしその目も細められ、はにかんだ表情で言った。
「最初はね・・そうだったの」
「・・・・」
「でもね、先輩とかに聞いてる内に
男はそれを望むものだって力説されて・・」
「・・・・」
リョーマは何も言わず、ただ友の言う事を聞いている。
友もそのリョーマの反応を知ってか
ゆっくり、ゆっくり教え込ませるように言葉を紡いでく。
「リョーマ・・が、幸せなら、あたしも幸せだから」
「だから、その・・興味を持ったって言うか。
してみたくなったというか・・何て言えばいいんだろ・・?」
「でも、なんでわざわざ先輩達に?」
「どういうものが、大人の恋愛か分からなくて。
皆変に誤魔化すから、嘘をつかなそうな先輩達に」
ドキドキがやっと薄らいできて、いつも通りの笑顔が出来る。
でも、友の目にはまだ男ではなく、少年として映っている。
それを、リョーマは気づいていた。
「で、分かった?大人の恋愛ってやつ」
「うーん・・・まだ微妙」
「じゃぁ、教えてあげるよ」
「うん・・・っ・・」
返事をし終わる前に、唇が重ねられた。
正確にカウントすれば、四回目。
二人が彼氏と彼女の関係になってから三回目の口付け。
ただ。
「・・・っふ?」
「・・・(ニヤリ)」
「うー・・!?ん、んん?」
「・・・日が暮れるの早いね」
「・・・・」
「友?」
夜道を歩く、二人。
どっちにしろ友の家の方が学校側なので
ほとんど一緒にいられるのだ。
満足げな表情のリョーマと
まだ頬を真っ赤にして、俯きながら歩く友。
「嫌だった?」
「そっ、そんなこと・・・ないけど」
「けど?」
「びっくりした・・」
「慣れれば平気」
「!?」
「・・・でしょ?」
「・・・・・・うん」
王子の爆弾的発言に驚きつつも
先ほどの行為が彼を喜ばせるためならと
自分も慣れていこうと考える友だった。
「で、友どうだったの?」
「どうだったって・・」
「気持ち良かった?」
「・・・」
思わず硬直。
言うまで離さない、と硬く掴まれた手が語る。
口をもごもごさせながら、
“なんで彼はこんな恥ずかしいことを言わせたがるのか”
という考えを振り払い、言おうと試みる。
が、喉から声が出ない。
「・・・悪くはなかった・・です」
「・・ま、最初はそんなもんでいいや。
これから段々言わせていけばいいし、覚悟しといて」
友、年齢十六歳
職業、高校一年生
彼氏、有り
目標、大人になること改め、大人に「慣れる」こと。
やっぱり、大人への道は遠い。
end.
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汐乃嬢の誕生日として送りつけた
版権モノテニスの王子様の越前夢です。
痛い痛い・・・(涙